おばさんは真空パックに閉じ込められた
一匹の乾燥すっぽんを嬉しそうに取り出し豪快にハンマーで強打した

巷にはサプリメントと呼ばれるものは、無数にある。
ビタミンだったり、コラーゲンだったり。

それらにはヘルシー思考というか、美容マニアというか、 「摂ってるとおしゃれ」みたいな部分もあると思う。

けれど、今回ご紹介するサプリメントにはおしゃれ度が一切ない。
それが「すっぽん」。響きも字面もどことなく恥ずかしい。

そんなすっぽんをどうして手に取り、買ってしまったかという経緯をお届けします。

私は普段、webのお仕事をしている一方で、 モダンバレエという踊りをやっていて、 公演にも年に2〜3回のペースで参加している。
バレエは優雅なイメージがあるけれど、 実際はとてもとてもハードな世界で、ケガや疲労にはいつも悩まされている。

ある日、いつも通りに仲間共々ぐったりと稽古に行った時、 我が師匠が得意気にひとつの小瓶を私達へ差し出した。

この瞬間こそが、すっぽんとの初めての出会い。

前の日、師匠は「今朝、すっぽん飲んだら調子いいのよ」と大絶賛していた。
それを分かち合いたいのか、わざわざすっぽんを持ってきたのだ。

その形状は、かわいそうなくらいに粉砕されて細粒となり、 姿はまったくないのだけど、いかんせん普段出会わないアイテムなので、 正直私達は腰が引けていた。なんだか曇ったウグイス色だし。

けれど、疲れが取れるならば!と一大決心して、 水槽臭漂う、その曇ったウグイス色を水で一気に飲み流した。

私はこの手のものは、「健康になるならば…」とカジュアルに口に出来るのだけど、 熱帯魚屋勤務歴と、亀の飼育歴のある友人はかなりしんどい表情を浮かべていた。

何とかすっぽんを摂り、入念な柔軟運動をし終えた頃に、 私達の身体に早くも変化が訪れた。

暑い。

その日はまだ春をそろそろ迎えようかくらいの時期で、 朝の稽古場はとても寒かった。

いつもの朝の稽古は笑っちゃうほど身体が動かないし、汗もかきにくいし、 とても人様にお見せ出来る舞いは出来ない。

それなのに、暑い!

みんな口々と「暑い、暑い…」と言い出し、気づけば足もぽかぽか。
早すぎるその効能に半ば笑えてきた。

そして、その日はいつもの朝より踊れた上、
稽古の後もわりと元気に一日過ごせた。

すっぽん、すごい。

その後も頭の隅には「すっぽん、いいな。飲みたいな。」と 前向きな思いが宿っていたけど、これが高い。2万3千円。

悶々と迷い続けていたある日、舞台前の大事な時期に風邪をひいた。

「もうすっぽんを買うしかない!」

ふらふらしながら、師匠が実際に買ったというすっぽんのお店へ向かった。
そのお店は、よく駅ビルのような所にあるすっぽん専門店。

私が「すっぽん下さい」と告げると、
お店のおばさんは真空パックに閉じ込められた一匹の乾燥すっぽんを 嬉しそうに取り出した。

そして、その真空パックを豪快にハンマーで強打!
続けて、専用の機械でさらさらに粉砕!

あっという間に、一匹のすっぽんから、二瓶の粉末が出来上がった。
もちろん色は曇ったウグイス色。

おばさんいわく、すっぽんはアミノ酸群が豊富で、私達が体感したように、 血行が良くなって、滋養強壮にも抜群らしい。

そして、毎日少しずつ飲み、元気いっぱいに公演前の稽古を完走。
本番もいつもより1.5割増で踊り切った。
疲れ以外にも、心なしか顔の弾力がいいような…

最近私の鞄にはいつもすっぽんの小瓶が入っている。
いつか、すっぽんがおしゃれアイテムへと昇進することを願いながら……

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アヤックル
アヤックル
(webデザイナー・コンテンツライター)
カタカナ職業に恥じらいを感じている。保守的。末っ子気質。長いものには巻かれたい。モダンバレエ歴30年も理由は「うっかり」。趣味は料理と家電屋めぐり。