どんな大人も「元・子供」である。
三つ子の魂100までもとも言われるし、現在の自分を形成する原点としての「自分の中の子供」を見過ごすことは出来ない。
けれど、突然「さあ、あなたの子供心を示しなさい」と言われても戸惑ってしまうだろう。
子供心って何だ? 原点なんてあったっけ?


先日「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という体験型アートイベントに参加してきた。 人間が暗がりの中で目が慣れていくのも、少しの光があるからだ。決して目が馴れることのない完全な真っ暗闇では、人間はもちろん、夜目の猫だって何も見えない。そんな「真っ暗闇」を全盲のガイドさん案内のもと体験してみようというもの。


偶然同じ日時に予約した人々で8人のチームを作り、3段階の暗がりを経て「真っ暗闇」へ案内された。一寸先どころか鼻の先さえ見えない闇。話したこともない人。それだけでも情報の少なさから闇への恐怖が募る思いだ。
視覚から入って来る情報に、いかに頼り切っていたのか痛感する瞬間でもある。
そこで頼りになるのは各々の声、そして自分の感触、聴覚。


おそるおそる歩いた竹林の青い香り。
触れることで突然現れた空豆の産毛。
見えていないのに習慣の動作からか口に運べるグラス。
そこから口いっぱいに流れ込む、鮮やかなりんごジュースの味……
目では読み取りきれなかった情報が身体へ吸収されるのと同時に、心が開いていくような気がした。知りたい、感じたい。奥の方からむくむくと純粋な好奇心が湧き上がってくる。竹林も空豆もりんごジュースも、目に見えていれば「知っている」で溢れる「なんてことない」ことのはずなのに、視覚を遮れば瞬く間に冒険と大発見に変わる。


目に見えていることで「見えていなかったこと」は、対外的なことだけじゃない。


すっかり伸びきった手足。
まぶたに乗せるアイシャドウ。
失礼にならない服装に気を使い、鏡の前で大人をわきまえる毎日。
そんな自分の姿にさえ、すっかり惑わされていたのだ。


暗闇の中で芽生えたあの高揚感と探究心。
あれこそが原点・子供心に違いない。


ダイアログ・イン・ザ・ダーク TOKYO

ダイアログ・イン・ザ・ダーク TOKYO(アート)
視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、暗闇を体験するワークショップ形式の展覧会。
1989年にドイツで開催されて以来、その後20年間でヨーロッパを中心に120都市600万人以上が体験した世界的規模のイベント。日本国内でも1999年から短期で開催されていたが、2009年3月より常設展示を目指して長期開催が行われている。
会期:第1期 2009年3月20日(金)〜6月下旬 ※各火曜日はメンテナンスのために休館
第2期 7月上旬〜 (予定※長期開催を目指しています)
ユニット:定員各8名 (所要時間約90分)
会場:レーサムビルB1F 東京都渋谷区神宮前2-8-2
参加費:完全予約制、定価8000円(日時によって割引あり ※) http://www.dialoginthedark.com/

ワーカーホリックと呼ばれようとも、私の毎日は仕事で出来ている。


仕事は正確さも大切だが、同じくらい早さも大切だ。早ければ、修正も出来る。その点では正確さよりも大切なように思う。早く情報を処理し、早く精査し、早くまとめる。本を読むことも、考えをまとめることも1秒でも惜しむ気持ちで取り組まねば成果は出ない。
気がつけば私の毎日は加速の一途をたどっているわけだ。


3号前の成人の日特集「歌舞伎座で遊ぼう」のレビューで、紹介するのに良いものはないだろうかと本屋をブラ付いているときに目に留まったのが本書だ。
小学3、4年生の「こくご」の教科書(全300冊)の中から、採用頻度の高いベスト10童話を調査し収録したアンソロジーである。
しかし、買ったは良いが目を通す時間がなく、ベッドサイドに置いて放ったらかしになっていた。


そしてあれよあれよと3ケ月が経過し、ゴールデンウィーク。
帰郷する際にバックへ忍ばせて新幹線でやっと眺めることができた。
最初はいつものように「今号の特集に適しているか」という情報を処理するつもりで目を走らせた。しかし、この本は、そのスピードをいとも容易く奪った。


児童用にひかられた日本語と、語り部が見えるような優しい描写。そうだ、すっかり「美しい日本語」というものを忘れていた。物語に通う温もり。息づかい。3行も読み進めるうちにすっかり引き込まれる、教科書体の優しい文字に「急ぎなさんな」と諭される思いがした。


「ごんぎつね」「手ぶくろを買いに」いくつか覚えている作品もあるが、子供の頃に感じた感動とはまた別の感動があった。
大人になった今を否定してしまうのではなく、幼少時代を懐かしむのでもなく、大人になった今だからこそ、より細やかに感じ取れる感情というのは確かにある。
あの小さな学習机から読んでいたはずの物語に、深い感動を覚え、目頭が熱くなる。
物語の1エピソードにこれまでの経験が重なるのだ。
今までに経験した感謝や後悔や自責の念。そういったものが物語から呼び起こされて大人の胸を熱くする。
人の心は効率化できるものじゃないからこそ、遠いどこかへ忘れて来てしまわないように、たまに立ち止まった方が良いと思っていた。


けれど、子供心は今の私の「原点」なのだ。
どんなに遠く置いて来てしまったとしても、経験と紐付いて決して現在と離ればなれにならない。この本の感動から、そんな発見をした。


やっぱり、大人は子供からできているのである。


おとなを休もう

おとなを休もう(書籍)
編集:石川 文子
出版社:フロネーシス桜蔭社
ISBN-10:4896107349
ISBN-13:978-4896107340
発売日:2003/08
価格:1, 470円(税込)
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コヤナギ ユウ
コヤナギ ユウ
(yours-storeダイヒョー)
イラストレーター・デザイナー・プランナー、株式会社yours-store代表。趣味が趣味に留められず「始めることが大切」と見切り発車し、「続けることがいちばん大切」と雪だるま式に人を巻き込む。登山とカメラが今の趣味で雑誌マニア。社会科見学先でハンカチーフを集めている。
エッセイ:i REwrite you!